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『言伝は時計にのせて』作者のことば

『言伝は時計にのせて』の作者より、完売にあたっての言葉を寄せてもらいましたので公開します。
同作は蒸奇都市倶楽部発の単著ということで、こうした「作者の言葉」という試みを行っています。



このたび『言伝は時計にのせて』(以下『言伝』)が完売したとのことで、
作者の感慨がこもったことばが欲しいとの依頼を広報氏より受ける。
広報が求めているものかは承知せぬが、以下に記す。
(補注:ここも「ことば」のうちとのことです)

以下には弁明と作品について若干のこと、執筆の簡単な経緯を書いている。
弁明は広報がいう感慨の部分。
作品についての若干のことは、形式的にもっともあとがきに近いものだと思う。
経緯については、作者が関わっている話ではないが記録として書き留めておく。


完売したのは窓口となるサークルとしては有りがたいことである。
しかし売れた、売れなかったという感慨はイベント後に勘定がすむまでだ。
作者としてはどれだけの人がこの作品を楽しめたかが大事だと考える。
そんなわけで作者は手にした読者の満足度のほうが気になっている。

創作の世界は必ずしも反響や反応がある世界ではない。
ましてや同人の世界は特にそうだろうと思っている。
なので作品が実際に受け入れられたかどうかは、
今後の冊子の動きも注視しないといけないだろう。
(リピーターがついたかどうかなどの判断だ。)
ともあれ分母が大きくならなければ反応も満足も得られない。
ことほど左様に、完売のお礼を申し上げる次第である。

ところで作者としては、『言伝』を他の蒸奇都市倶楽部の作品と比較したときに、
やや浮いているのではないかという点が気がかりである。

『言伝』では人は殺されないし大きな事件も起こらない。
これは蒸気都市倶楽部の中ではきわめて珍しいといえる。
蒸奇都市倶楽部の作品の多くでは人が死にまくっているからだ。
読者の方が『言伝』風の話を期待して他の冊子を読んで、
そこに肌が合わない作品が載っていたのならば、お詫びしなければならない。
肌に合わない作品は読者が容赦なく選別しても良いと考えているが、
誤った導き手となってしまったのだとすれば心苦しい限りである。

『言伝』は蒸奇都市倶楽部の作品群ではいまのところ異色である。
今後の作品の展開のうえでこれを異色でなくしていくことはできる。
『言伝』の主人公で、人が死なない作品の構想はある。
おそらく連作になろう。温かい話が気になる人はそちらを待ってほしい。
執筆予定の作品が4つぐらい詰まっているので、気長に待っていただきたい。
作者は同時進行ができない人間であるから。


さて、作品についても若干触れておこう。

機関調律師について
機械を修理する生業(なりわい)の人をそう呼んでいると捉えてもらって差し支えない。
ここでいう機械には、作品世界を象徴する蒸気機関で動作するもの以外にも、
時計やオルゴールのムーブメント、水車や(日本でいう)カラクリなども含んでいる。
(ちなみにこの世界にはクォーツ時計がないので、
機械という言葉には時計そのものも含まれている。)
よって機関調律師というのは、技師や機械工はもちろんのこと、
果ては町の修理屋さんまでも包括しているきわめて大ざっぱな言葉なのである。
ただし壊れた水車を修理する農家の人を機関調律師とは呼ばない。
あくまで農業が主たる仕事だからだ。
しかし町々を回って水車や風車を修復することを仕事する人は機関調律師と呼ばれるかもしれない。
かように作品世界でも『言伝』の時代には、はっきり定義されていないふんわりした言葉である。
よって読者にも、現段階では『機械を修理する生業(なりわい)の人』と説明しておく。
この説明に詳細が加わるとしたら、作中でももっともっと未来のことになるだろう。

機関調律師は大きな話(補注:『幻影の双貌』編)で、
本筋に関わってくる主要人物の仕事の一つであるから、
そうした部分への種まきとしても書かれている。

今作で時計を中心に据えているのは、機関調律師の由来を説明するのに最適だったからだ。
その他にも大学生の扱い、碩学位と碩学級の違い、出身地域による差別を匂わせたりと、
今後また大きな話や個別の作品で触れていく要素も軽く散りばめてある。
同じ作品世界で展開していく以上は、こうした仕掛けは外せないものだ。

仕掛けといえばもうひとつ。
すでに読んだ人は気づいているかもしれないが、
『言伝』は翌日の文学フリマ(補注:『第十九回文学フリマ』)の新刊
『蠱中の天』収録作の『影におびえる』『声にすくわれる』の表裏となっている。
直接ではないが、文字通り壁を隔てたつながりを有しているので、
まだの人は手に取って目を通してほしい。

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