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蒸気人間事件

〈蒸奇都市〉帝都 ~幻影の双貌篇~
蒸気人間事件
(ジョウキニンゲンジケン)

シリーズ「幻影の双貌(そうぼう)」第二弾です。
挿絵付きの長編となります。
前作『手向けの花は路地裏に』に引き続き、
デザインおよび挿絵はへっぽこタルト様に担当していただきました。
「幻影の双貌篇」についてはこちらの記事をご覧ください

書影
蒸気人間事件表紙

頒価:1000円
頁数:320ページ
版型:文庫版(A6判)
発行日:2017/10/28
原案:蒸奇都市倶楽部(人見広介)
著者:蒸奇都市倶楽部(人見広介、シワ)
監修:蒸奇都市倶楽部
デザイン・挿絵:へっぽこタルト

在庫
多数

あらすじ
雨上がりの夜には《蒸気人間》が現れる――。
蒸気機関によって成り立つ〈蒸気都市〉帝都でささやかれる怪異。

大学生、鴻池瞭は親友の庚絵梨との帰り道で、不審な蒸気の溜まりを目撃する。
それは帝都の白い闇に潜む怪異の先触れであった。
吹き上がる白い蒸気から出現し、人を襲うといわれる怪異《蒸気人間》。
晴れぬ真っ白な蒸気溜まりの中で《蒸気人間》に遭遇した瞭に、その虚ろな手が伸びて――。

三大碩学の一人、《蒸気卿》によってその場を切り抜けた瞭であったが、《蒸気人間》に惹かれるものを感じていた。
《蒸気卿》もまた同様に《蒸気人間》という存在に興味を示し、瞭に、調べるのならば協力すると申し出るのであった。
《蒸気人間》を調査することになった瞭と《蒸気卿》は、帝都最大の記録の保管場所へと赴く。

《蒸気卿》と共に《蒸気人間》の正体を調べていた瞭は、驚くべき事実を目の当たりにする。
白く煙る夜の帝都を徘徊する怪談の正体とは。




サンプル公開
創作文芸見本誌会場 HappyReadingさま


本文と挿絵の見本
※サンプルは実寸ではありません
実寸はA6版、本文は18文字40行の文字サイズ12級となっています。

*17ページ~19ページ
サンプル17 サンプル18 サンプル19

*122ページ~123ページ(挿絵)
サンプル122


訂正
蒸気人間事件・年表訂正
(2017年10月29日追加)

以下、上記サンプル画像から本文(文章)のみの抜粋です。




※仕様上、横書きです。ルビ、圏点は省いています。

  第 一 章
 男が走る。革靴が濡れた石畳を踏みしめる硬質な、それでいて湿った足音を立てながら必死の形相で駆けていた。夜の闇の中を、妖しげな白い闇の中を走る。
 科学は闇をかなたへ追いやっていた。だがその一方で、都市のいたるところから噴出する蒸気が新たな闇として夜の街に君臨していた。
 男は何者かに追いたてられてひた走る、いや、逃げているのだ。鞄はどこかに取り落とし、整えていた髪は無惨に乱れ、目には恐怖の色を浮かべている。悲鳴をあげたかったが、自分は栄えある帝大の講師であるという自尊心がこれを拒んでいた。
 閑静な高級住宅街の一角だ。夜も更けた時刻となれば人影はどこにも見当たらない。等間隔のガス灯がおぼろに浮かんでいる。
 いまの彼にとって、宅地を仕切る塀はなによりも高かった。延々と続く塀の向こうには、優しい灯りとそこに暮らす人々の温かな姿があるはずだ。家までの距離が途方もなく長く感じられた。しかし間もなく光明が見えてくる。白い闇が徐々に薄れつつあったのだ。それとともに男も余裕を取り戻しはじめる。
 あれは見間違いだったのだ。たまたま耳にした無責任な怪談。それを真に受けてしまった俺が、蒸気に映った人影を見誤っただけだ。雨上がりに発生した蒸気と、耳にした怪談と、そしてちょっとした目の錯誤がありもしない幻影を見せたにすぎない。
未知なる怪異など帝都にあるものか。将来の大学教授がなんて非科学的な態度を取って
しまったのだろう。俺は数十分後には暖かい暖炉を前にそう自嘲しているのだ。
 訪れてしかるべき未来を浮かべながら、それを実現するために彼は走った。あれは見間違いだ。そう強く言い聞かせながらも、速度は緩めなかった。バカな話だと笑いながらも、歩幅は大きいままだった。
 あと一つ角を曲がれば自宅はすぐそこだ。暖炉と安楽椅子が出迎えてくれる。
 だが、角を曲がった直後、彼はなにもかもが見間違いでなかったのを目の当たりにしてしまう。益体のない怪談がただの噂でなかったことを目撃してしまう。自分を守ってくれる常識という盾が打ち壊されていく音を耳にしてしまう。
 曲がった先に待ち構えていたのは影だ。しかしそれは実体に付きまとう影ではない。白い、それこそ蒸気のようなものが人の形を成して、男に向かって来ていた。
 それは怪異だ。未知などないと嘲笑した彼には、その正体がわかるはずもない存在。
 その名は、《蒸気人間》。

  第 二 章
 ――ああ、夢を見ているな
 瞭は燃え盛る炎に包まれた一画にいた。爆発音が響いて建物が崩れていく中、フラフラとよろめきながら泣き声で両親を呼び求める。服は焼け焦げ、お気に入りだったぬいぐるみもどこかへ行ってしまった。なにかが燃える臭い。あちこちから噴き出す蒸気。少女は息苦しさのあまり呼吸が荒くなり、立ちこめる煙を思いきり取りこんで咽ぶ。
 ――いつもの夢だ
 これは過去、瞭が実際に遭遇した出来事だ、とされている。
 このころ瞭はまだ十二歳。両親が勤める機関総合研究所で爆発事故が発生し、炎上したと伯父に聞いている。風邪をひいていた瞭は共働きの両親に勤め先の医務室に連れて行かれ、そこで安静にしていたさなかに巻き込まれたのだ。
 火災のあった研究棟の全員が死んだそうだ。もちろん両親も。
 瞭は唯一生き残った。そう言われても、自身にはまったく実感がない。事故から一年ほど後に目覚めた瞭は、それよりも前の記憶をほとんど失っていたからだ。しかし以前の記憶がかすかに残っていて、こうして過去の体験らしきものをしばしば夢と言う形で見てしまう。見慣れたと言ってもいいぐらいの頻度で。
 夢を見ている瞭の視点は、火災の中の少女と視点を共有している一方で、過去の自身とそれを見ている自分との“意識”は乖離していた。
 この記憶が自分のものだという実感を持っていないからだ。瞭はそう解釈している。まるで映像でも見るように、他人の記憶を覗のぞいているような感覚がするのだ。
 目覚めれば肌にジットリと汗が張り付いている。それだけが夢に実感が持てる経験だ。あまり見たくはないものの、瞭は夢を見るのを制御できない。
 少女は泣きながら、朦朧とする意識で炎の中をさまよう。可哀想だとは思うが、視点を共有しているだけの“意識”にはなにもできない。

【本文17ページ~20ページ抜粋】

【本文17ページ~19ページ抜粋】



 ただ事ではない。事故である。瞭は火夫に駆け寄った。怪我はなく、息もしている。気を失っているようだ。車両の扉は開いていて、上等な背広を着た男が二人倒れている。大柄な男と恰幅のいい男で、二人とも六十代ぐらいに見える。運転手もハンドルに突っ伏してのびている。やはり怪我はない。運転手がへまをしたのだろうか。
 瞭はふと、車の前方でなにかが蠢いているのに気づいた。
 目を凝らす。それは人影だ。ゆらゆらと輪郭が揺れている。誰か他にも中に入った者がいたのだろうか。いやいや、そうではない。その人影には色がなかった。もっと正確にいえば、周囲に溶けこむように、白い蒸気を透かすように、輪郭がぼやけている。動きがあるから瞭にも見つけられたのだ。蒸気溜まりの外ならば見過ごしていただろう。
 人影は蒸気でできていた。無色透明の、本当の蒸気で。
 瞭は学生同士の話でときたま耳にする怪談の《蒸気人間》を思い出した。
 雨上がりの夜、北部市、蒸気で出来た人影。条件は合致している。
 ――これが《蒸気人間》?
 シュッ、シュッ、と小さな音が聞こえてくる。
 瞭はそいつに何かを言おうとした。なにを? わからない。しかし何かを。
 そいつもまた瞭に気付いていた。相手は手を伸ばそうとして――ふいにけたたましい警笛が鳴り響き、瞭の聴覚を乱す。音の方を振り返れば、二条の光をギラつかせながら、乱暴運転の車が突っこんでくるところだった。瞭は飛びのいて辛うじて車を避けた。しかしすれ違いざまにズボンがかすかに引っ張られ、ブチリと何かえがちぎれる音がした。しまった、と瞭はすぐに腰元を探るがすでに遅かった。車をかわした拍子にズボンか懐中時計が引っかかってしまい、そのまま引っ張られて懐中時計の鎖が切れたのだ。
 車が走り去った後の風に流され、渦巻く蒸気溜まりが解消されていく。足元を見ても時計は落ちていない。そのまま車に持って行かれたようだ。
 それから一週間、瞭の頭から《蒸気人間》が離れない。誰かが《蒸気人間》と言うと思わず聞き耳を立ててしまうほどだ。それも絵梨に丸わかりであるほど露骨に。
 そして瞭は、あの日と同じ渦巻く蒸気溜まりを見つけ飛びこんでしまっていた。
 白だけが支配する異界。はるか北方の氷原もこんな光景なのだろうか。すぐそばにあるものすら感知できないほどの濃密な白い闇。瞭はその中に再び人影を見出した。
 懐中時計を握る。絵梨とお揃いのそれは瞭に落ち着きを与えた。
 徐々に人影が近づいてくる。瞭はかすかに音を聞いた。
 シュッ、シュッ。
 蒸気が狭い穴を勢いよく抜けるような音を。一週間前にも聞こえていたものだ。
 方向感覚すら失う白い闇の中、そいつは瞭の前に真っ直ぐやって来る。
 足音は聞こえない。なぜならそれは地面を踏みしめていないから。
 息遣いは聞こえない。なぜならそれは呼吸をしていないから。
 気配はない。本当に存在しているのかどうかもわからない。
 それでも、そこにいるという確信が瞭にはあった。
 どうしてか瞭を惹きつける怪談の存在。
 蒸気が人の形を成している。本当の意味での蒸気の塊。自身は色を持たず、白い蒸気の中に向けて目を凝らさねば、そこにいるとさえわからない透明な存在。
 しかし瞭には確かに見えていた。実体を持たない影のような、幽霊のような、半透明の存在が、目の前に立ちはだかっているのが。
「《蒸気人間》、君は――」
 瞭はハッキリと声に出した。口にして、あのとき何かを言おうとしていたその内容が明晰となった。問いたかったのだ。問いたいという欲求が、瞭をこの蒸気溜まりへと飛びこませた。あるいは渦巻く蒸気溜まりと《蒸気人間》を呼び寄せた。
「君は、いったい何者なの?」
 ――僕の、なに?
 そう口にしながらも、瞭の中の“何か”が確信していた。
 ――僕は《蒸気人間》が何なのかを知っているかもしれない
 一週間前と同じように、《蒸気人間》が瞭を求めるかのように片手を伸ばす。
 瞭もまた同調するように片手を前へ、《蒸気人間》に向けて伸ばす。
 恐ろしい存在ではない。触れればきっと解る。そんな確信が瞭にはあった。

【本文38ページ~40ページ抜粋】



 しかしそこまで踏みこんで聞いてもよいものかという判断が、瞭の問いを本心より一歩引いたものとさせた。それほど強烈な疑いをいだかせる男なのだ。どんな思惑を持っているのか。それを見通せないうちは余分な口を利く気はなかった。
「状況、物事、特に進行中の大きな事態は、さながら大渦と言えましょう。中心に向かって様々な事物が巻きこまれていくのでございます。人も物も、そしてわたくしも。ご覧の通りわたくし軽佻なものでして、いつも真っ先に巻き込まれてしまうのでありますが、さて、わたくしを巻き込むこの大渦はいったいなにか……、先ほどお嬢さんがご自身でなされた仮定に立ち返りましょう。いまをもっても進行中のこの《蒸気人間》の事態、その渦中にいるのは、果たして誰なのでございましょう」
 男は瞭の質問に答えず、喋ちょう々ちょうしてから、再び座るように手で促した。瞭は相手を見据えたまま慎重に腰を下ろす。男も遠慮なく静かに安座する。
「それでよいのです。腰を落ち着けて聞いていただかねば、閣下もわたくしも安心できません。むろん“空白の第四位”もね」
 閣下。第四位。いったい誰を指しているのだろう。瞭は男の言葉から必死に情報を得ようとする。警戒して自分から不用意に聞き出せない以上、それは自然な行いだった。
 男は事態を渦だと言う。様々なものが中心に向かって巻きこまれていくと。

【本文122ページ抜粋】
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